AI時代こそ「具体と抽象」の往復運動が最強の武器になる理由〜プログラミング教育の真の価値〜
こんにちは、IT講師のケイです!
最近、保護者の方からこんな質問をいただくことが増えました。
「AIがコードを書いてくれる時代に、子供がわざわざプログラミングを学ぶ必要ってあるんでしょうか?」
確かに、ChatGPTやClaudeなどのAIを使えば、あっという間にプログラムが出来上がります。単純なコーディングスキル自体の価値は、以前より下がっているかもしれません。
しかし、私は自信を持ってこう答えています。
「AI時代だからこそ、プログラミング教育は必要です。ただし、それは『コードを書くため』ではなく、『具体と抽象』を行き来する思考力を鍛えるためです」
今回は、AI時代に社会で活躍するために不可欠な「具体と抽象」の往復運動と、それを鍛える最高のジムとしての「プログラミング」についてお話しします。
「具体と抽象」ってなに?
「具体」と「抽象」という言葉、聞いたことはあっても、詳しく説明するのは難しいですよね。
例えば、「タマ」という猫が目の前にいるとします。これは「具体」です。 ここから、 「タマ」→「猫」→「哺乳類」→「動物」→「生き物」 とレベルを上げていくこと、これが「抽象化」です。
逆に、 「生き物」→「動物」→「猫」→「タマ」 とレベルを下げていくことが「具体化」です。
実は、私たち人間の「賢さ」というのは、この「具体」と「抽象」をどれだけ自由に行き来できるかにかかっているんです。
AIへの指示は「抽象化」の極み
今、話題の生成AI。実はAIを使いこなす能力(プロンプト・エンジニアリング)は、まさにこの「抽象化能力」そのものです。
AIに対して「面白いゲームを作って」とだけ言っても、なかなか良いものは出てきません。「面白い」という言葉の抽象度が高すぎる(曖昧すぎる)からです。
- 「小学3年生が楽しめる」
- 「3分で終わる」
- 「計算ドリルとRPGを組み合わせた」
- 「キャラクターは猫」
このように、頭の中にあるボンヤリとしたイメージ(抽象)を、AIが理解できる言葉(具体)に落とし込んでいく。そしてAIが出してきた結果(具体)を見て、「なんか違うな、もっとこうしよう」と修正(抽象化して再構成)する。
AIを使いこなせる人は、この「具体⇔抽象」の翻訳がとても上手なんです。
実は、Scratchやマインクラフト、Robloxなどに夢中になっているお子さんは、遊びの中で自然とこのトレーニングを積んでいます。
「こんなすごいお城を作りたい!(抽象)」という頭の中のイメージを、「ブロックをこう積んで、ここに階段を置いて…(具体)」という作業に落とし込む。 思い通りにいかなければ、「なんでだろう?」と考えて作り直す。
彼らは遊びながら、大人顔負けの「具体と抽象の往復運動」を繰り返しているのです。
プログラミングは「思考のシャトルラン」
では、なぜプログラミングがこの能力を鍛えるのに最適なのでしょうか?
プログラミングとは、「やりたいこと(抽象)」を「コンピュータへの命令(具体)」に翻訳する作業だからです。
例えば、「キャラクターをジャンプさせる」というやりたいこと(抽象)があるとします。 これをコンピュータに伝えるには、
- スペースキーが押されたことを検知する
- Y座標(高さ)をプラス10する
- 0.5秒待つ
- Y座標をマイナス10する
というように、極限まで具体的な手順に分解(具体化)しなければ動きません。
そして、バグが出たら「なぜ動かないのか?」という現象(具体)から、「ロジックのどこが間違っているのか?」という法則(抽象)を見つけ出し、修正します。
プログラミング学習は、単にコードを覚えることではなく、この思考のシャトルラン(往復運動)を何百回、何千回と繰り返すトレーニングなのです。 このトレーニングを積んでいる子は、AIに対しても的確な指示が出せますし、AIが出してきた答えの良し悪しも判断できます。
おすすめの一冊『13歳から鍛える具体と抽象』
この「具体と抽象」の概念を、中学生くらいから大人まで、とても分かりやすく解説してくれている名著があります。
『13歳から鍛える具体と抽象』(細谷功 著)
13歳から鍛える具体と抽象
学校の勉強や友人関係、社会の仕組みまで、「具体と抽象」の視点を持つだけで世界の見え方がガラッと変わります。「勉強ができる子」と「地頭がいい子」の違いも、この視点で説明されています。
この本を読むと、「なぜ算数を勉強するのか?」「なぜ人と話が噛み合わないのか?」といった疑問が氷解します。プログラミング教室に通っているお子さんはもちろん、私たち大人にも強烈な気づきを与えてくれる一冊です。
まとめ:AIは「具体」が得意、人間は「抽象」で勝負
AIは、膨大なデータから答えを探してくる「具体」の作業は人間よりずっと得意です。 しかし、「そもそも何を解決すべきか(課題の発見)」「どんな価値を生み出したいか(ビジョンの創造)」といった「抽象」の領域は、まだまだ人間に分があります。
プログラミング教育を通じて、子供たちに身につけてほしいのは、AIという強力な「具体化マシーン」を乗りこなし、自分の頭の中にある「抽象的なアイデア」を形にする力です。
「コードが書ける」こと以上に、「考え方ができる」こと。 これこそが、AI時代におけるプログラミング教育の真の価値だと、私は考えています。
ぜひ、お子さんと一緒に「これって具体的にどういうこと?」「それって要するに(抽象的に)どういうこと?」と会話を楽しむところから始めてみてくださいね。